そういって原大佐は、さっきから話をしながら指さきでいじっていたはげちょろの丸い缶を、太刀川青年の前におしやった。
「はあ。この缶は、一体どうした缶ですか」
太刀川はけげんな顔をして前に出された缶をみた。それは、彼の掌のうえに、ちょうど一ぱいにのる小さな缶だった。その缶の胴には、一たん白いエナメルをぬりこみ、そのうえに赤黒青のきれいなインキで外国文字を印刷してあるものだったが、白いエナメルの地はところどころはげていて、これまでにずいぶん手荒くとりあつかわれたことを物語っていた。
手にとって、缶の胴に印刷されてある文字をひろい読んでみると、それはどうやら高級の油が入っていたものらしく、缶の製造国は日本ではなくて、アメリカであると知れた。缶は、なにか入っているのか、たいへん軽かった。そして缶を横にすると、中でことんことんと音がするものがあった。太刀川はその缶に、たいへん興味をひかれたが、さて何のことだかさっぱり見当がつかない。
その様子をみていた原大佐は、太い指をだして缶の蓋をさし、
「かまわないから、その缶をあけてみたまえ。そして中にあるものをよくしらべてみたまえ」
「あけていいのですね」
太刀川は、お許しがでたので、さてなにが出てくるかと、たいへんたのしみにしながら、缶の蓋を力まかせにこじあけた。
蓋は、あいた。
中をのぞくと、白い紙片を折りたたんだものがでてきた。それをつまみだすと、まだ缶の中に入っているものがある。缶をさかさまにすると、ごとんと掌のうえにころがり出たものは、ずっしり重い鉄片であった。その大きさは一銭銅貨ぐらいだが、厚さはずっと厚く、そして形はたいへんいびつで、砲弾の破片のようにおもわれた。しかもこの鉄片は、鉄のような色をしていないで、なにか赤黒いねばねばしたものに蔽《おお》われていた。まったく不思議な鉄片であった。缶の中には、そのほかになんにも入っていない。
折りたたんだ紙片と、汚れた鉄片!
この二つが缶の中から出てきたのである。
「その紙片をひらいて、そこに書きつけてある文章を読んでみたまえ」
原大佐がいった。
「はあ、――」
太刀川は、紙片をひらいた。とたんに彼は口の中で、おもわず、あっと叫んだ。
太平洋の怪
太刀川青年は、紙片をひらいて、何におどろいたのであろうか。
それはほかでもない。その紙片が、た
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