ら、ここに十分もってきていますよ。あははは」
「うむ、じゃ、どうするつもりなんだ」
「つまりその、あなたがたが、のみたくなったときに、こまると思いましてね」
「なに」
「いや、今日の演習がおわるまでに、きっと、酒をのみたくなることが、できてきますよ。きっとそうなります。そのときに、私ばかりがのんでは、いやはやお気の毒さまで……」
それをきくと、ケレンコは、「ふふふ」とふくみ笑をしたが、運転士の方へむきなおると、
「おい、まだ戦隊においつけないのか。なにをぐずぐずしている」
とどなった。
「は。閣下はまだ出発号令をおかけになりませんので……」
「ばか、ばか、ばか。貴様は何年運転士をつとめているのか。よし、こんどかえったら、銃殺だ」
「ええっ、閣下。それはあんまり……」
「やかましい。早く快速艇を走らせろ」
「へえい」
とたんに、ケレンコと太刀川は、いやというほど後頭《うしろあたま》を潜水兜のふちにぶっつけた。おどかされてふるえあがった運転士が、いきなりエンジンを全速力のところへもっていったからであった。
近づく大艦隊
「司令官。戦隊においつきました」
運転士が、よろこびの声をあげていった。
「だが、まだなにも見えんではないか。うそをつくと――」
と、ケレンコがいいかけると、
「正面、舳のわずか右上に、うす黒く、ぼんやりしたものがあるでしょう」
「あああれか。なるほど」
ケレンコの目に、やっとはいった。
それから彼が妙にだまったと思ったら、座席の下から、水中無電気の受話器をひっぱりだして、耳にあてていたのである。
それを見て、太刀川も、すぐ座席の下に手をのばして、受話器をとり、人工鼓膜にあてた。
さかんに無線電話がきこえてくる。早口でしゃべっているのは、前にいく恐竜第六十戦隊の司令パパーニン中佐からであった。
それは、途中からであったが、
「――約八十隻ノ潜水艦、約百五十隻ノ駆逐艦、ソノホカ大小ノ特務艦十数隻……」
ここまできいて、太刀川は、ぎくんとした。太平洋上を、このような大艦隊がうごいているとすれば、それはわが海軍にちがいない。だが一たい、いかなる目的でどこへ向かっていくところであろうか。
「――海上ハ波オダヤカニシテ、晴天ナレド雲アリ。空中二相当爆音ヲキクモ、飛行機ノ種別、台数ハ不明ナリ。彼ノ針路ハ西南西微西!……」
西南西
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