それで屍体に附着している血痕をきれいに清めてやるのだった。
 助手が白木綿をつなぎ合わせて作った繃帯《ほうたい》をもってきた。それを受取った医師は、まず屍体の頭に鉢巻をさせた。縫った傷口がすっかり下に隠れてしまった。繃帯のつづきは、後頭部を通って屍体の鼻の下から頤《あご》全体を包んだ。外に見えているのは、眼と鼻とだけである。
 繃帯はなおも伸びて、咽喉をグルグルと巻いた。それから両の腕の下に斜めに懸った。それからまた胴をグルグルと巻いて、だんだん下に下って来た。
 股のところまで包んで、繃帯まきは完全に終った。解剖台の上には、屍体の中から取り出した内臓の一片だに残っていなかった。ただ残ったのは、バケツに移した血液だけだった。
 それから助手が、別のバケツに、何べんも熱い湯を搬んできた。その中で、医師はまず解剖器械を洗った。それから二重の手袋をぬいだ。
 クレゾールを湯に入れた新しいバケツの中に、医師は静かに両手を入れた。そして丁寧にいくども手を洗った。それから血に汚れた手術衣を外した。
 次に洗面器に、新しい湯を貰ってきて、その中に手をつけると、石鹸を十分につけてゴシゴシと洗った。そう
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