た。
バケツには、かなり多量の血液が溜ったらしかった。結局この柄杓は一ぱい何シーシーという容量が決っていて、何ばいの血液がすくいだされたから、屍体の血液の量は尋常であったか、それとも尋常でなかったかが判定せられるのであろう。
ここで解剖がたしかに一段落したように思った。
医師は助手をよんだ。助手は紙と鉛筆とをもって、医師の近くへ寄った。医師は彼にだけ聞えるような低い声でもって、なにか云うのであった。すると助手が鉛筆をうごかしてしきりと紙の上に記入した。いつしか医師の手には、キャリパーが握られ、内臓などが一々寸法をとられていた。
それも終った。
すると医師は、屍体の頭の方に廻った。そこに切り彫《きざ》まれている脳を両手で下から持ちあげて、頭の中に押しこんだ。その上を、例のお碗のような頭蓋骨で蓋をした。それから前後にひろげてあった死者の頭の皮を両方からグッと引きよせた。するとその頭の皮は、また元のようにスポリと頭蓋骨の上に被された。死んだ少年の顔が再び見えた。彼の少年は、自分が解剖されたことはすこしも知らぬような実に穏かな顔をしていた。
医師は鞄のなかから曲った針と長い糸とを出
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