ある。
僕はその日、或る用件のため、或る病院で働いていた。ところが看護婦が知らせてくれたところによると、その夜、病院に於て他殺屍体の解剖があるという話である。これは全く珍らしいことである。私も病院で働いている上からは、直接関係はなくとも、人体の解剖ぐらいは見て置いた方が参考になると思い、その始まるのを待った。
日がとっぷり暮れて、電灯がついた。
大勢の警官が、続々と入ってきた。
解剖は、階段教室で行われた。病院の職員、看護手、看護婦などが、警官の邪魔にならぬように、すこし後方に席をとった。
検査官一行も到着して、解剖台のすぐ前の席に腰を下ろした。その後から大きな鞄を持った助手を従えて、今夜の執刀者である警察医が入ってきた。
それにつづいて運搬車のうえに載せられて、屍体が入って来た。白布をとれば、その下に裸体の若い男性屍体が現れた。年のころ十五六でもあろうか。五厘刈にした丸顔の可愛いい少年だった。
屍体といえば、僕たちは臘細工のような青い身体を想像するのであるが、この屍体はそうではなかった。顔も唇も赤々として、まるで眠っているとしか考えられない。聞いてみると、この屍体は井戸
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