したが、何も兇器《きょうき》は所持して居りません。どういたしますか」
 姿は見えないが、声だけの秘書が、用事を取次いだ。
「何か土産《みやげ》を持っている様子か」
「なんだか、大きな風呂敷包を、背負って居ります。どうやら羊か何からしく、X線をかけると、長い脊髄骨《せきずいこつ》が見えました」
「羊の肉は、あまり感心しないが、糧食難の折柄《おりがら》じゃ、贅沢《ぜいたく》もいえまい」
「では、通しますか」
「とにかく、こっちへ通してよろしい。土産物を見た上で、話を聞くか、追払《おっぱら》うか、どっちかに決めよう」
 博士は、把手《ハンドル》から手を放すと、手をあげて、禿頭《はげあたま》をガリガリと掻《か》いた。
 醤の密使|油蹈天《ゆうとうてん》氏が、その部屋に現れたのは、それから五分ばかりたって後のことであった。
「おう。油蹈天か。お前が来るようじゃ、大した土産もないのであろう」
 博士は、密使の顔を見て、率直に落胆《らくたん》の色を現した。
「いや、博士。本日は、わが醤主席の密命を帯びてまいりましたもので、きっと博士のお気に入る珍味《ちんみ》をもってまいりました」
「羊の肉は、くさく
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