醤は、これを見て、ちょっと顔色をかえたが、すぐ思い直したように、瘠《や》せた肩をそびやかせて、強《し》いて笑顔をつくった。
「ははは、たとい、あの何万の原地人が攻めて来ても、われには人造人間戦車隊があるんだ。鋼鉄製《こうてつせい》の人造人間に命令電波をさっと送れば、たちまち鋼鉄の戦車となって、貴様たちを、苺《いちご》クリームのように潰《つぶ》し去るであろう。わが機械化兵団の偉力《いりょく》を、今に思いしらせてやるぞ」
と、そこまでは、威勢《いせい》のいい声を出して、見得《みえ》を切ったが、その後で、急に情《なさ》けない声になって、
「……しかし、大丈夫かなあ。油学士の奴、おちついていやがって、部分品を作って数を揃えたはいいが、未だに試験をしていないのだ。電波のスイッチを入れたとたんに、うまくスクラムとやらを組んで戦車になってくれればいいが、万一人造人間の愚鈍《ぐどん》な進軍だけが続くようでは、原地人軍は、その間に人造人間の頭の上をとび越えて、わが陣営へ攻めこんでくるであろう。ふーむ、こんなにわしに心痛《しんつう》をさせるあの油学士の奴は、憎んでもあまりある奴じゃ」
すると、うしろで、えへんと咳払《せきばら》いがした。主席は、はっとして、うしろをふりかえってみると、何時《いつ》の間に現れたのか、そこには当の油学士が、いやに反《そ》り身になって突立っていたではないか。
「ああ醤主席、あなたが心痛されるのは、それは一つには私を御信用にならないため、二つには金博士を御信用にならないためでありますぞ。金博士の設計になるものが、未だ曾《かつ》て、動かなかったという不体裁《ふていさい》な話を聞いたことがない。主席、あなたのその態度が改められない以上、あなたは、金博士を侮辱《ぶじょく》し、そして科学を侮辱し、技術を侮辱し、そして……」
「やめろ。お前は、まるで副主席にでもなったような傲慢《ごうまん》な口のきき方をする。見苦しいぞ。わしはお前には黙っていたが、こんどの人造人間戦車が、満足すべき実績《じっせき》を示した暁には、お前を取立てて、副主席にしてやろうかと考えているんだ。しかし実績を見ないうちは、お前は一|要人《ようじん》にすぎん。――どうだ。本当に大丈夫か。仕度《したく》は間に合うか」
油学士は、かねて狙《ねら》っていた副主席の話を、思いがけなく醤の口からきかされたので
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