分間だ。この間に、うまく頑張《がんば》って呉れるなら、あとは僕たちの勝利だ。下手に行けば、明朝《みょうちょう》といわず、今夜のうちに僕たちの呼吸《いき》の根は止ってしまうことだろう。おい林田、もっと近くによれ!」
 僕は劉夫人や×国大使に関する指令を発して、林田の援助を乞《こ》うた。
「よおし、そうこなくちゃならないんだった。恐ろしいことだが、僕たちが肉弾を以ってぶつかる目標が定《きま》っただけ、心残りがしなくていい。では同志、お互の好運を祈ろうよ」
 僕たちは握手をしてわかれた。氷のように冷い同志林田の手だった。

 海龍《かいりゅう》倶楽部《クラブ》へ入りこむには、会員各自に特有な抜け道がこしらえてあった。会員は真黒な衣裳で、頭巾《ずきん》も真黒、手にも真黒な手袋をつけねばならなかった。会場へ入るには手頸《てくび》のところに入墨《いれずみ》してある会員番号を、黙って入口の小窓の内に示せばよかった。だから僕にも「紅《べに》四」と朱色《しゅいろ》の記号が彫《ほ》ってあり、それは死ぬまで決して消えはしないのである。
 僕は時間をはかり、すこし早や目の時刻に倶楽部へ着いた。会議室のホールに
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