しながらどなった。
 マリ子は、それに気をとられてそのまま汽船をおり、桟橋に立った。
「こっちじゃ。この自動車にお前さんがたもおのり。わしが途中まで送っていってやるよ」
 大木老人は、なにもかも胸のなかにのみこんでいる気になって、車の中から兄妹をいそがせた。正太がさきに自動車のなかに入った。
 マリ子もつづいて入った。扉《ドア》はしまる。自動車は、警笛をならしながら、すぐさまたいへんなスピードを出して、桟橋からはしりさった。
 あまりスピードを出したものだから、桟橋ではたらいていた仲仕が、びっくりして身体をかわした。そしていうことに、
「ああ、らんぼうな奴だ。おれが今、あのままじっとしていたら、あの自動車はおれの身体を半分|轢《ひ》いていったろう。なんだって、あのようなスピードを出すのじゃろう」
 そういって、彼はとおざかりゆく自動車の番号を、にらみつけた。


   にせ切符


 それから三十分ばかりたってのことであった。ウラル丸の船客は、もうほとんどみんな出てしまった。出口に立って、船客から切符をうけとっていた切符|掛《がかり》の船員は、すこしつかれをもよおし、あたりはばからぬ大
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