ずれそうに、ふるえるのだった。高射砲は、すっかりだまりこんでしまった。
硝煙は海面をおおって、あたりをだんだん見えなくしてゆく。天候もわるくなってきたようだ。そのうちに、飛行機のすがたも、煙霧《えんむ》のなかにとけてしまって、やがて見えなくなった。ただエンジンだけが、つづいてはげしい唸《うな》りごえをたてていたが、それもいつしかとおくになってしまった。ウラル丸の船員といわず船客といわずみんないいあわしたようにほっとため息をついて、なに一つこわれたところのない船体をふしぎそうにながめまわすのであった。
敦賀《つるが》港
そののちは、べつにかわったこともなく、ウラル丸はついにめでたく敦賀《つるが》の港に錨《いかり》をおろした。ウラル丸の検疫《けんえき》がすんだ。もうこのうえは上陸してもよいということになった。そこで桟橋《さんばし》に、横づけとなりそして出口がひらかれた。
まっさきに出口へ突進したのはひげだらけの老紳士大木であった。
「さあ、おまえたちも、わしについて、早く上陸するのじゃ。こんな縁起《えんぎ》のわるい船は、すこしでも早くおりたがいいぞ。さあ、わしについてく
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