きも》をつぶしたことであろう。きっと、百人や二百人は、目をまわすものがでてきたことであろう。


   岩窟《がんくつ》の押し問答《もんどう》


 岩窟の中では、帆村と正太の二人が、元気をもりかえした。エフ氏がとびだしたので、イワノフ博士は、すっかりあわてている。そこをねらって、帆村と正太とは、右と左とから、博士をおさえつけたのだった。
「さあ、イワノフ博士。しずかになさい」
「あっ、わしをおさえて、一体どうしようというのか」
「知れたことです。人造人間を日本へもちこんだあなたの悪い仕業《しわざ》を、どうしてこのままゆるしておけるものですか」と帆村は、博士ににげられないように、その手に、縄《なわ》をかけた。
「おや、これはなにをするのかね」博士は、じろりと、帆村をにらんだ。
「お気の毒ですが、こうなっては、どうもやむを得ません。あなたに逃げられると、またとんでもないさわぎをくりかえさなければなりませんのでね」
 帆村は、はっきりと博士に対して、引導《いんどう》をわたした。
「ぶ、無礼な奴じゃ。だが今にみるがいい。貴様の方で、どうぞこの縄をとかせてくれという時がくるだろうよ」と、イワノフ博士は、ぶつぶついいながら怒っている。
 帆村は、そんなおどかしの手には乗らない。そこで正太少年に目くばせして、博士のうしろから気をつけているようにたのんだ。帆村は、ここでイワノフ博士に、人造人間の秘密を早くいわせるつもりだった。
「博士。あなたは、人造人間エフ氏を日本へ連れこんで、どうするつもりだったのですか」
「ははあ、そろそろ取調べがはじまったというわけだな。そんなことは、そっちで考えてみたらいいだろう」博士は、ふてぶてしく、顔を天井《てんじょう》の方にむけていった。
「博士、返事ができないようですね。いや、その返事は、あとで聞くことにしましょう」と、帆村は、イワノフ博士の様子をじっとうかがいながら、「博士。あなたは、人造人間エフ氏を、この電波操縦器でもって、いつも動かしていたのでしょう。人造人間は、いわば自動車のようなもので、運転手がのって、エンジンをかけ、そしてハンドルをとると動くので、自動車ひとりでは動かない。それと同じように、エフ氏も、エフ氏ひとりでは動かない。博士が、この操縦器についているたくさんのスイッチを、うまい工合に入れたり切ったりしないかぎり、エフ氏は動かないでしょう。どうです、それにちがいありますまい」
 帆村は、するどく、人造人間の秘密に切りこんだ。
「はははは、そこまで分っていれば、なにもわしに聞くことはないじゃないか。どうじゃ、日本には、人造人間などというこんなりっぱな器械があるかね。いや、ありますよといっても、世界中の誰も信用しないであろう」
 と、博士は、いやなことをいう。帆村は、それには一向とりあわず、さらに一歩前に出て、
「ねえ博士。そこで僕は一つ、あなたに御注意をしますが、どうも、あの人造人間エフ氏は、あなたの自由にならなくなっているように思うんですがね。つまり、エフ氏は、勝手に動きだしているように思うんです。これは、御心配なさらなくてもいいのですか」
 帆村の質問は、たしかに博士の痛いところをついたようであった。それまで、いばって胸をはっていたイワノフ博士が、帆村のこの質問をきくと、急にあわてだした。
 ここぞと、帆村はまたするどく、言葉でもって切りこんだ。
「どうです、博士。人造人間エフ氏は、あなたの心にそむいて、こんなに壁に穴をあけ天井をつきぬき、そのうえどこかへとびだしました。まさか、あなたは、エフ氏に対し、博士が苦心してつくったこの岩窟を、こんな風にこわせとは、命令されなかったのでしょうにねえ」
「うむ。それは……」
「博士。エフ氏を、このまま放《ほう》っておいて、それでさしつかえないのですか。エフ氏に勝手なことをさせておいていいのですか。もしやエフ氏が、海の中へとびこんだとしたらどうでしょう。たちまち海水が、身体の中の器械をぬらしてしまって、動かなくなるでしょう、そうなれば、折角《せっかく》の人造人間が、だめになってしまいます」
「海水ぐらいは平気じゃ。いや、これは……」
 と、口をおさえたが、この博士の言葉から考えると、人造人間は、水にぬれても大丈夫《だいじょうぶ》のようにできあがっているらしい。どこまでもよくできた人造人間だった。


   人造人間《じんぞうにんげん》の操縦


 博士は、急に、そわそわしはじめた。立ってもすわってもいられない様子だ。帆村探偵は、正太の方に、目配《めくば》せをした。
 正太は、帆村の顔色を察して、だまって、うんうんとうなずいた。
「ねえ、博士。人造人間が、こわれないうちに、この操縦器をつかって、おとなしく呼びもどしておいたがいいでしょう」
「うん、それは
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