ていて、それにかけてはお猿さんより上手なんだからね」
お猿さんというよりは、ゴリラといった方が似あう大辻助手だった。
負けない二人
大辻助手は、物事がうまくいくと、たいへん元気の出る男だった。そのかわり、物事がちょっとけつまずいて、うまくいかないと、とたんにくさるという悪いくせがあった。
「さあ、マリ子さん。わしの背中におんぶするんだ。ぐずぐずしていると、また悪い奴にみつかるからね」
マリ子は大辻の背中にとびついた。大辻はそこで、バンドを外《はず》して、マリ子を背にくくりつけた。マリ子は、お尻の下のところがバンドにしめつけられてくるしいが、そんなぜいたくなことをいっていられない。マリ子の両手は、大辻の肩をしっかりとおさえる。大辻は、その穴をのぼりはじめた。
彼は、ポケットから大きな水兵ナイフを出して口にくわえている。両足と両手と、この四つの手足が、穴の壁を押しているが、まるで煙突の中に蟹《かに》が入っているような恰好である。彼は、たくみに手足をかわるがわるうごかし穴の壁を上へのぼっていくのであった。水兵ナイフは、穴の壁に、手足をかける凹《くぼ》みをつくるためたいへん便利であった。
穴をのぼりきるまでに、丁度三十分かかった。大力を自慢にしている大辻助手も、さすがにこの三十分間のむりな働きに力のありったけを出してしまったものとみえ、穴の外に出ると同時にものもいわずに、草の上にどしんと倒れて了《しま》った。
「大辻さん。しっかりしてよ」
「ふーん」
「はやくにげましょうよ。だれか追いかけてくるとたいへんだから」
「ふーん」
なにをいっても、しばらくは、ふーん、ふーんと唸《うな》っていた大辻だったが、やがて牛がやるように、むっくり起きあがると、
「ばんざーい。もう、こわい者はいないぞ。さあ、ひきあげよう!」
マリ子を背中におうと、大辻は、うすぐらい山道を下へ、どんどんと駈《か》けおりていった。
大辻は、たいへんうれしかったのだ。そして大得意だった。彼は、帆村のことや正太のことを思い出さなければならないのだが、彼はそんなことなしに、どんどん山を下りていった。あまりにうれしすぎたのであった。大得意だったのである。
麓村《ふもとむら》へ、麓村へ! その間、人造人間エフ氏にも追いかけられないように祈りつつ、大辻助手はどんどんと山を下りていく。
さて
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