庫を爆破させたのもこの二人のやったことだとおもわれるが、二人がやりとげようということは、よもやそれだけでおわるものとは考えられない。おもえばおそろしいイワノフ博士と人造人間エフ氏ではある。
 しかもこのおそるべき二人が、日本へもぐりこんでいることを知っている者は、あまりたくさんないのである。それを知っているのは、まず帆村と正太ぐらいのところではないか。その帆村と正太とが、今イワノフ博士につかまって殺されようとしているのだ。二人の一大事であるとともに、大きくいえば、わが日本の一大事である。


   おそろしき棲家《すみか》


 イワノフ博士は、大型のピストルをかまえ、帆村と正太とを今にも撃ち殺しそうないきおいであった。
「さあ、二人とも、こっちへはいれ。ずんずん、その穴をおりてゆくんだ。ぐずぐずすると、うしろからピストルの弾丸《たま》をごちそうするぞ」
 イワノフ博士は、ゆだんなく二人の様子をみまもりながら、大岩のうしろにあいている洞穴《ほらあな》のなかにおいこんだ。かぼそい少年正太と、傷ついている帆村とを洞穴においこむことぐらいなにほどのことでもなかった。
 そこがイワノフ博士の隠《かく》れ家《が》なのである。大岩をたくみにくりぬいてつくってある洞穴は、見るからに身の毛のよだつほど、すさまじい光景を呈している。洞穴内には、バクテリア灯らしいふしぎな青色の光をはなつ灯火《ともしび》がついている。奥へいくと、なかなかひろく、三畳ぐらいの大きさの部屋が二つも三つもつづいている。よくまあこんな部屋があったものだ、――と思うが、じつはそんな部屋がはじめからあったわけではなく、イワノフ博士が人造人間エフ氏をつかってこれだけの洞穴をつくらせたのであるから、さらにおどろかされる。人造人間エフ氏は機械人間であるから、たいへんな力が出るのであった。どんな風にして、洞穴をつくるか、読者諸君はすでに、人造人間エフ氏が戦車をどろどろにとかしたことをおぼえているだろう。あの調子なのである。いや、いかに人造人間が、ばか力をもっているかということは、やがて親しく読者諸君の目の前にあらわれる日が来るであろう。その大事件のことは、いずれ先へいって、くわしく申しのべるつもりだ。
「さあ、こっちへはいっておれ。どんなことをしてもにげられないぞ。もしもにげだす様子がみえると、そのときはすぐに人造人間エフ
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