、ハンスの前につれてこられた。
私は、あまり意外なこの場の出来ごとに、すっかり気をのまれていたが、このときようやくわれにかえって、車をおりるとニーナと共に、ハンスの前へ近づいた。
「これは一体どうしたわけかね、ハンス」
私は、聞きたくて仕方がないことを、ぶっつけて尋ねた。
「うん、君は、びっくりしたろう。しかし、わけは、簡単なんだ。このモール博士というのは、もと、われわれの祖国ドイツにいた科学者だ。博士は、ナチスのため祖国を追われて、このベルギーへ移ったが、そのとき、モール博士と同僚《どうりょう》だった私の父、すなわちヘルマン博士の秘密研究をうばって、逃げてしまったんだ。しかも私の父は、モール博士のために毒を盛られ、とつぜん心臓麻痺《しんぞうまひ》で倒れてしまったので、博士のやった悪事が、永い間、わからなかったのだ。でも、ドイツ官憲の、懸命な捜索《そうさく》から、モール博士の所在《しょざい》がわかり、私は、身分をかくして博士の門下となり、盗まれた秘密の研究を、とりかえそうと、くるしい努力をしていたのだ。君か私かのどっちかが、どうかなってしまえば、図面が半端《はんぱ》になり折角《せっ
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