。あんなに大きな音をたてながら、まだ扉はあいてないのか」
「よけいなことは、一口もいうな」
ハンスは怒っている。
私は、ちゃんと服を着てしまったので、扉の鍵に手をかけた。
とたんに、それがきっかけでもあるかのように、戸外で、だだだだだン、だだだだンと、はげしい銃声がきこえた。
「あっ、機関銃の音だ! さては、市街戦が始まったんだな」
鍵をまわすのと、ハンスが室内へころげこんでくるのと、同時だった。
「今のを聞いたか。ドイツの落下傘《パラシュート》部隊だ!」
「えっ、そんなものが、やってきたか」
私は、ドイツ軍の大胆さと徹底ぶりとから、大きな感動をうけた。
「おい、千吉《せんきち》。早くしろ、早くしろ。例のものを、持ち出すんだ」
「例のもの?」
「ほら、例のものだ。モール博士から預けられた例の密封《みっぷう》した二本の黒い筒《つつ》を持ちだすのだ」
「うん、あれか。あんなものを持って逃げなければならないか」
「もちろんだ。われわれ二人の門下生は、特に博士から頼まれてるのだ。博士の信頼をうら切ってはならない」
モール博士というのは、このベルギー国のモール科学研究所の所長で、私も
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