えまで、なにからなにまで、私が計画したとおり、配電盤の前に残っているあの人造人間が、順序正しくやってくれるんだ。まあ、見ているがいい」
私は、得意だった。ニーナと私をのせた人造人間は、肩を並べて、すッすッすッと歩きだした。そして階段をもう一階、上にのぼると、たいへんな力を出して、扉を押したおし、外へ出た。そこには一条《ひとすじ》のりっぱな地下道がついていた。人造人間は、そのうえを、走りだした。だんだんスピードがあがってきて、風がひゅうひゅう鳴りだした。
「ニーナ、おちないように、人造人間の背中に、しがみついているんだ!」
「ええ」
人造人間は、砲弾《ほうだん》のように走る。
あっという間に、衛兵所《えいへいじょ》の前を通りすぎた。そして地下道から外に出た。草の匂《にお》いが、ぷうんとした。二人の人造人間は、なおも肩を並べ、風を切って走りいく。
(どうも、あんまりうまくいきすぎたようだ)
私は、人造人間を利用したこの脱出計画が、あまりにうまくいきすぎて、うれしくもあったが、意外な感がしないでもなかった。それにしても、衛兵《えいへい》が発砲するでもなし、誰かが後を追いかけてくるでもなし、全く意外なことだらけであった。
一時間ばかりすると、夜が白々《しらじら》と明けていった。心も感情もない人造人間に背負《せお》われて、どんどん広野《こうや》を逃げていく私たちの恰好は、全くすさまじいものに見えた。とにかく、この勢《いきお》いで、あと一時間ばかり走らなければならないが、途中《とちゅう》、ベルギー兵かフランス兵にとがめられたとすると、人造人間にのった私たちは、化物かスパイ扱いにされて、誤解をまねくおそれがある。そんなことも、新しい心配になって、私の頭をつかれさせた。
ニーナも、死人《しにん》のように、青ざめた顔をしている。彼女は、大きな眼をあいて、不安げに、しきりに、あたりを見まわしている。
そのニーナが、とつぜん私をよんだ。
「ねえ、私たちの前を、へんな自動車が走って行くわよ。髯《ひげ》もじゃの紳士が、のっていて、反射鏡《はんしゃきょう》で、しきりに、こっちをみているわ」
「えっ、そんな奴が、前にいたか」
私は、うしろばかり注意していたので、この先駆者《せんくしゃ》には、気がつかなかったのだった。なるほど、前方五百メートルのところを、たしかに、私たちと同じようなスピードで、街道を走って行く無蓋《むがい》自動車があった。
その自動車のうえから、とつぜん、ぴかぴかと、眩《まぶ》しい光線が、閃《ひらめ》いた。なにかの信号のように。
すると、どうしたわけか、私たちののっていた人造人間のスピードが、急におちて、おやへんだと思っているうちに、ぴったりと、道路のうえに、停《とま》ってしまった。
「こんなはずはない。私は、国境附近に達するまで、人造人間を、全速力で走りつづけさせることにしてきたのに……」
と、私は、人造人間が、急に停ってしまったことに、大不審《だいふしん》をもった。
「おい、千吉《せんきち》じゃないか」
太い声が、私をよんだ。
私は、前を見た。いつの間にか、例の怪自動車が、私たちの前に停っていた。そして、車上《しゃじょう》からこっちを向いている髯《ひげ》もじゃの顔!
「おお、モール博士じゃありませんか。これはおどろいた」
ふしぎな再会《さいかい》
モール博士と、行きあったのだ。ふしぎなところで、一緒になったものだ。
「おどろいたのは、わしの方のことだ。君はいつの間に、あの黒い筒の中に入れておいた設計図を使って、こんな人造人間を作りあげたのかね」
博士は、車上から、こわい顔をして、私たちを睨《にら》みつけた。
そういわれると、私は一言もない。私は、もう仕方がないと思ったので、こうなったわけを手短かに、博士に報告した。
博士は、私の一語一語に、顔を赤くして、ドイツ軍を呪《のろ》っていた。しかし、私に対しては、思いの外《ほか》、不快に思っていないらしい。
「博士。でも、へんですな」
「なにが、へんだ」
「でも、私は、この人造人間が、私たちを国境附近へつくまでは、全速力で走るように、ちゃんと器械を合わして来たのに、ここで停ってしまったのは、どういうわけでしょうか」
「なんだ、そんなことか。それは造作《ぞうさ》ないことさ。ふふふふ」
博士は、奇妙なこえをあげて、笑った。
「造作ないとは?」
「つまり、わしが停めたのさ。発明者であるわしには、あの設計によるA型人造人間を停めることなんか、わけはないのだ。幸《さいわ》いに、その器械をつんだ自動車が、あそこにああして、こわれずに、ちゃんとしているんだ」
と、博士は得意そうにいった。
なるほど、これは道理《どうり》である。この人造人間がA型という名のついて
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