いろいろと昼間の出来ごとを質問した。しかし私は、一切、口を緘《かん》して、語るのをさけた。ニーナは、ついに腹を立てて、寝てしまった。
午前三時!
ついに、その時刻となった。私は、その時刻こそ、脱出するのに最上の機会だと思って狙っていたのだ。
「ニーナ、お起きよ」
私は、ニーナを、ゆすぶり起した。
ニーナは、びっくりして、藁の中から起きあがった。私が、脱出のことを話すと、ニーナはあまりだしぬけなので、俄《にわ》かに信じられない顔付だった。
「脱走なんて、そんなこと、出来るの」
「うん、出来るのだ。人造人間を使って、ここを脱《の》がれるんだ」
「ええ、人造人間? そんなこと、出来るのかしら」
信じ切れないニーナを、ひったてるようにして、私は窓を破って、廊下へ出た。もちろん私は、例の黒い筒を、背中にしっかりと背負って、両手は自由にしておいた。
「ドイツ兵に見つかったら、どうなさるの」
ニーナは、心配げに、たずねた。
「柔道で、投げとばすだけだ。柔道のことは、ニーナも知っているだろう」
と、私は、投げの形をして見せた。
「ああ柔道! 知っている、あたし。日本人は、ピストルがなくても、敵とたたかえるのね。まあ、すばらしい」
その足で、私は、フリッツ大尉の部屋へ飛びこんだ。もちろん大尉は、ベッドの中で、ぐうぐういびきをかいて寝ていた。大尉の上衣が、壁にかかっている。私はそのポケットを探した。一束《ひとたば》の鍵が、手にさわった。私は狂喜《きょうき》した。それこそ、あの人造人間の指揮塔の扉の鍵だったのである。私はニーナの手をとって、階段づたいに、人造人間のいる三階へ、かけのぼって行った。
ニーナは、その途中で、私に、こんなことをいった。
「なにもかも、お芝居のように、うまくいくのね。あんまり、うまくいきすぎると思うわ。それにしても、フリッツ大尉は、なんというだらしない人でしょう」
ニーナは、あきれている。私とて、じつはこううまくいくとは、思っていなかったのだ。脱出方法のことや、大尉が、無造作《むぞうさ》にポケットになげこんだ指揮塔の鍵束《かぎたば》のことなどは、ちゃんとしらべてあったのだが、それにしても、こううまくいくとは思いがけなかった。廊下にも階段にも、歩哨《ほしょう》一人、立っていないのだ。
私たちは、らくに、指揮塔の中に忍びこむことが出来た。
「これ
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