ゃありませんか」
 技師は、熱心を面《おもて》にあらわしていった。
「まわらない歯車が二個もあったか。どうしたわけだろう」
 と、大尉は私の顔を、じろりと睨《にら》んだ。
 だが、何を、私が知っているものか。
「あらゆる号令は、かけてみたつもりだが、はて、へんだな」
 と、大尉は、なおも解《げ》せぬ面持《おももち》で、広い額を、とんとんと拳《こぶし》で叩いた。
「なぜだろうな、セン。説明したまえ」
「私が、なにを知っているものですか。あの筒の中に、こんなすばらしい設計図が入っていると知ったら、私は、あんなところにぐずぐずしていませんよ」
「ふしぎだ。が、まあ今日のところは、これでいいだろう」
 と、フリッツ大尉は、試験の終了《しゅうりょう》を宣《せん》したのであった。
 私たちは、檻を開いて、外に出たが、そのとき大尉は、私に向い、
「どうだね、セン。君は、捕虜《ほりょ》として土木工事場《どぼくこうじば》で、まっ黒になって働きたいか、それとも、この工場で、見習技師《みならいぎし》として、楽に暮したいか」
 と、たずねた。
「もちろん、楽な方がいいですなあ」
 と、私は即座《そくざ》に答えた。単に、楽を求めたわけではない。私は、見習技師としてでも何としてでも、この工場にとどまりたかったのであった。それには、一つの望みがあった。それは、なんとかして、人造人間の設計図を、うばいかえしたいということだった。
 その日から、私は、この地下工場で、働くことになった。フリッツ大尉が、試験の結果、これならば大丈夫、戦場に出して充分役に立つことがわかったので、それからというものは、工場は、全能力をあげて、人造人間の製造にかかったのである。
 当時、大尉の計算によると、この工場で、一日のうちに、人造人間を五百人作ることが出来る。十日間|頑張《がんば》ると、五千人の人造人間部隊が出来るから、これをもって、イギリス本土への上陸作戦が、うまくいくにちがいないと考えたのである。しかも、一人の人造人間は生きた人間の兵士の百人に匹敵《ひってき》し、五十万の英兵《えいへい》を迎え討《う》つに充分であるというのだ。
 私は、その夜のうちに、すべてを決行しようと、機会のくるのを、待っていた。私は、捕虜の身分であるので、例の藁のうえに寝た。ニーナも捕虜であるから、同じ部屋に寝るのだった。ニーナは、私に向かい
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