犯人は確かに、この空気工場の中にいる!」
 そう署長が叫んだとき、卓上の電話がチリンチリンと鳴った。青谷技師がそれを取上げようとするのを、昂奮《こうふん》しきった署長は横から行って、ひったくるように取上げた。
「モシモシ。誰か来て下さい」
 と、上ずった悲鳴が聞えた。
「君は誰だ。名乗り給え」
「ああ、近づいて来る。妻の幽霊だ。助けて呉《く》れッ。ああ、殺されるーッ」
 異様な叫びと共に、電話は切れた、署長の顔は、赤くなったり蒼《あお》くなったりした。電話の主は工場主の声に違いなかった。
「赤沢氏が幽霊に襲われ、救いを求めている。赤沢氏の室へ案内し給え、早く早く」
「えッ、先生がッ。――」
 青谷技師を先登《せんとう》に、署長以下がこれに続いて、室外に飛び出した。階段をいくつか昇って、とうとう特別研究室に駆けつけた。
 扉を開いてみると、居ると思った筈の、赤沢博士の姿はどこにも見えなかった。しかし受話器の外《はず》れた電話機が、床の上に転がっていた。してみると只今の恐怖の電話は、この室から掛けたものに相違ない。博士と幽霊とは一体どこに消えたのだろうか。
 一同は顔を見合わせて、沈黙した
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