体空気をボイラーに入れて、微熱を加えてゆくと、別々のパイプから、酸素ガスやネオンやアルゴンなどの高価なガスがドンドン出てきて、圧力計の針を動かしながら鉄製容器《ボンベ》の中へ入ってゆくのが見えた。
 工場はあまりに広すぎた。署長の腰骨が他人のものとしか考えられなくなった頃、液体空気貯蔵室へ来た。
「君は幽霊じゃあるまいな」と早や道をしてその室に待っていた田熊社長が署長の顔を見ると皮肉を飛ばした。
「わしはもう夙《と》くの昔、君がこの工場の一隅で八人目の犠牲者になっとることと思って居ったわい」
 丘署長はやりかえしたいのを、青谷技師の前だというので、懸命に我慢をした。
「さあ、液体空気を頒《わ》けてさし上げましょう」そういって青谷技師は、床の上から手頃の魔法壜を台の上に引張りあげた。
「それから序《ついで》に、御注意までに、液体空気の性質を実験してごらんに入れましょう」
 青谷技師は、側の棚から、大きい二重|硝子《ガラス》の洋盃《コップ》を下ろした。それは一リットルぐらい入るように思われた。次に彼は、床の上から魔法壜をとりあげて、洋盃《コップ》の上に口を傾けた。ドクドクと白い靄《もや》が
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