の声は云ったが、そのとき思いがけない「呀《あ》ッ」という叫び声が聞えた。(……こりゃ可笑しい。こんなところに変なものが……)とまでは聞えたが、そのあとはガチャリという音を残して、何も聞えなくなってしまった。
 田熊社長は、惜しいところで盗聴器が聞えなくなったので、顔を真赤にして口惜がった。すぐさま、再び工夫を呼んで直させたが、五分ばかりして彼等は、恐《おそ》る恐る社長の前へ罷《まか》りでて、云ったことである。
「社長さん、もういけません。向うの方で秘密送話器を切ってしまいました。この方法じゃ盗み聴きはもう駄目です」
 社長は万事を悟って、苦が笑いをした。
「じゃこれから、空気工場へ出かける」
 道々田熊社長は腕組をしながら、あの盗聴から得たさまざまの興味ある疑問について考えた。
「丘署長と、話をしていたのは一体誰だろう。大分腕利きらしいが、あんな男がK署に居《い》たかしら?」
 どう考えても、そんな気の利いた人物は考え出せなかった。その疑問は預《あず》かりとしておいて外《ほか》にも疑問の種があった。
「話によると、どうやら犠牲者の屍体を粉々に砕いて、気球の上から撒くいう仮定を考えている
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