お膳立てでした。
 それに貴方は、一つの重要な失策をしている。貴方は、細心《さいしん》の注意を払ったにも係《かかわ》らず、柿丘氏の日記帳を処分することを忘れていた。或いは、貴方はこの日記帳を読んだことはあるのだが、柿丘氏が、あのことについては、ほんのちょっぴりも日記帳に記述をさけているのを見て、すっかり安心されたのかも知れませんね。
 だが、この私は、重大な一行を見遁《みのが》しはしなかった。それは、柿丘氏が今年の秋の始めに、日×生命の保険医の宅で、正面からと側面からとの、二枚のレントゲン写真を撮ったという記事だったのです。
 レントゲン写真は、正面又は背面から撮影するものであって、けっして側面からうつすようなものじゃない。そこを私は、不審に思ったのです。それから私は、日×生命の保険医を訪ねて、いろいろと絞った揚句《あげく》、貴方があの保険会社の外交員と、保険医とをうまく買収して、あの奇抜なレントゲン写真をとらせ、その種板を持ってゆかれたことを知りましてねえ、町田狂太さん、貴方は、正面と横とから、柿丘氏の右胸部にある大きい空洞《くうどう》の体積を、精《くわ》しく計算なすったのでしたね。
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