偵 帆村荘六《ほむらそうろく》」
こんな名刺なんか、破いて捨てちまえだと思った。しかしそんなことは色にも出さず僕は云った。
「どんな御用か存じませんが、まアお掛けなさい。一寸着物を着ますから……」
そう云って僕は、着物のある奥座敷の方へ、とび込もうとすると、
「いや、動くと、一発。横《よこ》ッ腹《ぱら》へ、お見舞い申しますぞ」青年は、おちついて云った。
ふりかえってみると、青年紳士の右手にはキラリと、ブローニングが光っているのだった。
僕は、裸のままで、新調の洋服をソッと傍へのけると、縁側《えんがわ》に腰を下ろした。
「もう、お覚悟はついたことでしょうが、柿丘秋郎殺害犯人として、貴方《あなた》を捕縛《ほばく》します。令状は、ここにちゃんとあります」
帆村と名乗る私立探偵は、白い紙きれを、僕の方に押しやった。
「莫迦なことを云っちゃいかん」
と、僕は云った。
「柿丘は僕の親友でもあり、兄弟同様の仲なんだ。怪しい人物は、彼をめぐる女性たちそれから藪医者《やぶいしゃ》なんか、沢山あるじゃないか」
「そんなことは、貴方のお指図《さしず》をうけません。知りたければ云ったげますが、僕は
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