に、飯粒《めしつぶ》かなんかを、ちょっと付着させた上で、もう一度始めに釣した缶をグワーンと、ひっぱたいてみると、あとから釣るした缶がたちまち振動して鳴りだすのは勿論のことであるが、見て居ると、缶《かん》の壁があまりに強く振動するものだから、其のうちにとうとう、密着していた飯粒が剥《は》がれてポロリと下に落ちてくるのである。――こいつを使って堕胎《だたい》をやらせようというのが、柿丘秋郎の魂胆《こんたん》だった。
 子宮《しきゅう》は茄子《なす》の形をした中空《ちゅうくう》の器《うつわ》である。そう考えると、子宮にもその寸法に応じた或る振動数がある筈だ。妊娠後|二《フ》タ月や三月や四月の胎児は、ドロップの缶に付着した飯粒《めしつぶ》も同然で、ほんの僅かの力でもって子宮壁に付着しているのだった。注射器を使って子宮の中に剥離剤を注入すれば、その薬品が皮膚を蝕《おか》すため、胎児と子宮壁とをつないでいる部分の軟《やわらか》い皮が腐蝕して脱落し、堕胎の目的を達するのだった。それを機械的にやるのが、柿丘秋郎のとろうという方法であって、雪子夫人の外部から、強烈な特定振動をもった音を送ってやると子宮は
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