味とは違って、ぶっきら棒に、課長はいった。
「あなたはわしをおからかいなのではないでしょうか。いいですか。心臓をちょん切って持っていったのを第一とし、次にこの黒い四角い包みがそうなんですが、これは代用心臓が入っているんです。スットン、スットンと音がしているでしょう。あの音は、この箱の中に仕掛けてある喞筒《ポンプ》が、正しく一分間に六十回の割合で、この青年の血液を、心臓に代って、全身へ送り出しているんです」
「ほほう」
と、検察官たちは、黒箱へ耳を寄せて、おどろきのあまり口を丸く開く。
「お分りになったでしょうな。このような優秀な代用心臓を供給し、それを見事に取付ける手際からいって、その下手人は烏啼めの外にはないと断言ができます。これが第二の証拠ですわい」
「ほほう」
「そればかりか、この黒い風呂敷をごらんなさい。ここに見えるのは、烏《からす》の形をした染め抜き模様です。これは赤ン坊が見てもそれと判断ができるでしょう、この風呂敷が奇賊烏啼の所有品だということは……。これが第三」
「ほほう、これは気がつかなかった」
「第四には、賊はこの青年紳士安東仁雄君の心臓を強奪すると共に、直ちに代用
前へ
次へ
全23ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング