じゃちょっと説明しようかね」
先を急ぐ筈の金博士は、そこで急にのんびり腰を据《す》えてしまって、
「いいかね。ここにABCDEなる五つの部分品があったとする。いずれも、重さは十キロずつとして、合計五十キロの重さのものだったとする」
「はい、その算術は分ります」
「ところが、そのABCDEの部分品を一処にして測《はか》ると、総重量がたった二十キロしかないんだ」
「そこがどうも分りませんなあ。一つ十キロのものが五個あれば、どんな場合でも総量は五十キロです」
「ところが、それが何とかの浅ましさというやつなんだ。いいかね。ABCDEの部分品をばらばらにして置いて一々測ると総計五十キロある。これはよろしい。その部分品を組合わせて測ると、これがなんと二十キロになる――という場合は、只一つある。それは、その部分品で組立てた器械が、重力打消器《じゅうりょくだしょうき》であった場合だ」
「え、重力打消器というと……」
「つまり、重さの源《みなもと》である重力を打消す器械のことを、重力打消器というのだ。つまり五十キロの部分品から成るその重力打消器は、組立てられることによって、三十キロの重力を打消す性能のものだったんだ。だから五十キロ引く三十キロで、残りは二十キロと出る。どうだこの算術は間違いなしによく分るだろう」
「うへーッ、こいつは愕《おどろ》きましたな」
と、事務長は目を丸くして、
「それで何ですか、貴下のお持ちになっている三つのトランクの内容物は、いずれも重力打消器の全部分品なんですか。で、何でまあ重力打消器を三つも、ぶら下げて歩かれるのですか」
「折角《せっかく》だが、お前さんの想像力は、すこしばかり弱いよ。わしのトランクの中に入っている身のまわり品は、必要とあれば重力打消器を組立てることも出来るし、また必要とあらば、ラジオ送受信機《そうじゅしんき》としても組立てられるし、又或る場合には兵器――いやナニムニャムニャムニャ――で、つまりその又或る場合には、喞筒《ポンプ》みたいなものにも組立てられるのだ。どうだ、魂消《たまげ》たか」
「へー、さいですか。こいつはいよいよ愕きましたな。そしてお話を伺《うかが》っていると、そのトランクがだんだん欲しくなってきましたが、いかがですか、その一つを私にお分け下さるわけには……」
4
「いや、それはまたこの次のことにしまし
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