数えてもきりがないから、もうよしたらどうじゃ。要するに右に述べたものは全部わしの身のまわり品だから、誤解して貰っては困る」
「尤《もっと》も、新品はないから、商品じゃないということは分ります。ではよろしゅうございます。品名だけはノートして置きますが、まず此場《このば》は税金を懸けないで、お通り願うということにいたしましょう」
「ほう、漸《ようや》く話がわかってきたね」
博士は、その場に引き散らかされた道具を一生けんめい掻《か》き集め、トランクの中に入れて、蓋《ふた》をした。そして軽々と肩に担いだのであった。
「ちょっと待ってください。何だか空《から》のトランクを担いでいられるように見えますね。どれ、ちょっと持たせてみせてください」
事務長がそのトランクをさげてみると、なるほど空のトランクのように軽い。
「はて、面妖《めんよう》な。あれだけ重い道具を入れて、こんなに軽いとは、まるで手品みたいだ。お客さん、あなたは早いところ、あの道具類をトランクから抜いて、どこかへ隠してしまいましたね」
「冗談いっちゃ困るよ。あの身のまわり品はちゃんと中に入っているよ。ほら、このとおり……」
金博士は、わざわざ三つのトランクを、もう一度開いて事務長たちに見せてやった。
道具類は、ちゃんとぎっしり詰まっていた。
「おかしいな」
事務長は、その中《うち》から、小型のモートルを選んで、取り出した。
「おや、このモートルの重さだけでも、トランクより重いくらいだ。すると、或る重いAなる物品を入れたトランクBの総重量AプラスBプラスアルファは、元のAよりも軽い――というのは、どういう算術になるのかしらん。どうも式が成立たんように思うが」
「おい事務長さん。お前さんは中学校で算術の点が優《ゆう》か秀《しゅう》だったらしいね」
と博士はいって、
「だが、わしのトランクに関するかぎり、そのような純真《じゅんしん》な算術は成り立たないのだよ。忙《せわ》しいから説明をしていられないが、しかしこれは事実なんだ。つまり、AはAプラスBプラスアルファよりも大なりという場合が有り得るんだ。この解法がお前さんに分ったら、お前さんに人造モルモットを一匹、褒美《ほうび》にあげてもいいよ」
「へえ、そうですかね。しかし私には、とても分りません。なんとか今、説明していってください」
「そうかね、聞きたいかね。それ
前へ
次へ
全13ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング