一等好きな顔に直してもらったのです。顔の美醜ほど、昔人類を悩ましたものはありません。だが考えてみると、あの頃の人間も知恵のない話でした。顔の美醜とは、いわゆる顔を構成している要素であるところの眼や眉や鼻や唇や歯の形とその配列状態によって起るのです。眼がひっこんでいるのなら、そこに肉を植えればいいのです。そんなことは大した手術ではありません。ことに人造肉や人造皮膚ができてから、醜い人間はどんどん顔を直して、美男美女になってしまいました。これから街へ出てみましょうか。きっとあなたは、ただの一人も醜男醜女をも発見できないでしょう」
「おお、――」
といっただけで、フルハタは、あとにつぐべき詞《ことば》を知らなかった。人間の美醜は三万年の人類史を支配したようなものだと思っていたが、今はいくらでも顔をかえられるようになったときいて歎息するよりほかなかった。
火星との戦争
いよいよフルハタは、棺桶から外に足を踏み出すときがきた。大地を歩くなんて、一千年以来のことだと思うと、じつに感慨無量であった。
外へ出てみると、そこは掘りかけたトンネルのようなところだった。そばを見ると、一
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