それはとても信じられない」
まだ十九か二十の溌刺たる女性の四股をもちながら、それで九百三歳とは、首肯しかねる。第一、そんな長寿者がいるものだろうか。
「ほほほほ。そんなことをおっしゃると、わたしはたいへん愉快ですわ。千年前の人類が、どんな知能程度だったかということが、いまはっきり目の前に見えるようで、たいへん参考になります」と、しきりにひとりで悦びつつ、「ですけれど、わたしばかりが悦んでいないであなたのため、早く一千年後の今日の世界はどんなになっているかその常識をつけてさしあげましょう」
といって、チタ教授が、金髪をなでながら話をしたことによると、なんでも人類は、今から九百年前に、死の神を征服したという話だった。つまり人類は、死ななくてもよくなったのだ。なんという大発見であろう。
なぜ、そんなことになったかというと、人体に関する生理学の研究が進歩して、いっさいの病気が電気学によって診断され、そして電気的療法で癒ることになった。心臓の悪い人間は、すぐ代用心臓にとりかえることができる。血圧の高い人間は、半日ぐらいかければ、すっかり血管をとりかえることができる。だから、もし死ぬのがいやなら、決して死なないのである。
それでも、このおどろくべき医学の進歩がおこなわれた当時は、代用臓器がたいへん高価であったし、そして金属で作った関係上、相当に重く、ために代用臓器を装置した人間は、やむをえず歩くことができなくなった。
心臓に肺臓に腎臓などと、三つの臓器をとりかえると、はじめは全重量が人間の体重の三倍ぐらいになったそうで、それでは一人歩きはできない。自分で町をあっちへいったりこっちへいったりするため自動車のうえに乗り放しということにしておくよりほかに道がない。
だが今はそんなことはない。どんどん歩くことができる。それは代用臓器が、たいへん小さくなったことと、そして金属をつかわなくても耐圧性人造肉をつかえば軽くてすむこととなった。
「だから、ほら見てごらんなさい。わたしのからだを。すこしも変じゃありませんでしょ。そしてこんなに軽快にうごけますわ」
と、チタ教授は、フルハタの前で、まるでレヴュー・ガールのように四肢をふってうごいてみせた。
フルハタは、また新しい驚きにぶつかって目をみはらなければならなかった。
「すると、九百三歳のあなたは、やっぱり代用臓器のおかげでも
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