も耐えるようになっていた。
一千年後の覚醒ののち七日たってフルハタの疲労はすっかり回復し、この棺桶に入ったときのことが、まるで昨日のように思われるのであった。まったく一千年というものを、よく眠ったものであった。
だが、果して一千年を眠りつづけたか。それは壁にかけられているラジウム時計が、ちゃんと保証をしていてくれる。この時計は、ラジウムがたえざる放射によって崩壊する状態を測定し、それによってこの永い年数が自記せられるようになっていた。フルハタは起きあがった最初に、その時計の前にとんでいって、経過時間を読んだ。これによると、一千年よりもすこし眠りすぎていた。時計の読みは、一千年と百六十九日目になっており、紀元でいうと三千六百年の冬二月に相当している。つまり百六十九日だけ、この棺桶機械は誤差を生んだわけである。だがそれにしても一千年に対し百六十九日の誤差であるから大した誤差ではない。ことに、彼フルハタが冷凍状態において、完全にその生命を一千年後にまで保つことができたので、その機械の優秀さは充分にほめていいだろう。
ただこの上の不安は、一千年後になって、この棺桶を外から叩く者がなければならないのであるがそのノックの音がまだ聞かれないことだった。仕様書によると、この厳重な一千年不可開の棺桶は、外から開くのでなければ、絶対に開かない仕掛けになっていたのである。棺桶の構造を堅牢にするうえからいって、どうしてもそのようにするよりほか道がなかったのだ。
「どうしたのだろう。眼ざめるのが百六十九日もおそかったものだから、扉をあけに来てくれる者がどこかに旅行にでも出かけてしまったのではなかろうか」
開かない密室の中で、このような不安に襲われるということは、死刑よりもなおいっそうはげしい恐怖だった。
彼は、信号装置に故障があるのではないかと思って、そのそばにいって、いくどとなく点検した。だが、故障は発見されなかった。しからば彼の覚醒したことが、東京とニューヨークとハバロフスクの三都へ、電波でもって伝えられていなければならぬはずだった。
「誰も助けにこないというのは、いったいどうしたことだろう?」
誰も扉をひらきに来ないと、せっかく覚醒した彼フルハタも、あと三十日ぐらい生存できるが、その後は絶対に生きつづける見込みがつかない。彼は、自分の生命が惜しいということよりも、こうして一
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