はその盃を目の高さにあげて透して見てにやりと笑う。盃は紫色の唇へ近づく。ごくり、ごくりと、うまそうに呑み終わって、死神男は盃を唇から放すを、傍なる女は白いあらわな腕をさし出して盃を受け取る。死神男の感にたえたという舌打――突然その男が、皺枯れた声を張り上げた。
「おい帆村荘六……」
 その声音に、帆村はぶるっと慄えた。
「……わしの臨終に、間に合うように来てくれたか。しかしピストルとは無風流な……」
「おお、古神行基か」
「そう……今気がついたのか。ひっひっひっひっ」
「君はまだ生きていたのか」
「……設計どおり人は揃った。カズという名の女人、こっちへお入り……」
「入っちゃいけない」
 帆村はカーテンの蔭へ叫んだ。
「ひっひっひっ。帆村荘六、何をいうか。……あっ、もう迎えだ。地獄へのお迎え……吸血鬼がひとり消える。さらば……」
「あなた!」
 生きていた古神行基が、ばったり前へのめるのに打重って田鶴子は激しく嗚咽《おえつ》する。
 帆村はいつの間にかピストルをポケットに収って、旧友の亡骸《なきがら》に向って合掌していた。
 こうして七人の青年の血を啜《すす》った吸血鬼古神行基は、本当
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