てみましょう。もちろん冒険ですよ。しかしわれわれは今、冒険を必要とする要路にさしかかっているんです」
「ええ、分りました。では千早館へ行きましょう」
 と、春部はきっぱりいって、手に持っていた竹竿を草叢に落とした。

     8

 帆村は、小型のピストルを春部に渡した。帆村の手にはさっきまでは望遠鏡の役目をしていた洋杖が元の形に返って握られていた。
 二人は大まわりをして、千早館の真裏に当る山側から塀を越えて構内へ入った。それから壁伝いに玄関の正面に廻った。玄関は館内へ引込んでいて、四坪ほどの雨の懸らない煉瓦敷の外廊下があった。そのずっと左の隅に立って手を上に延ばすと、玄関の扉と同じ面にある壁の装飾浮彫の紅葉見物の屋形船に触《さ》わる。田鶴子が爪先《つまさき》を伸ばして、屋形船の上を指先で探っていたのを、帆村は望遠鏡の中で認めた。それだから彼は今、同じことを試みた。その屋形船に乗合っている男女の頭を一つ一つさぐっているうちに、短冊《たんざく》を持って笑っている烏帽子《えぼし》男の首が、すこしぐらぐらしているのを発見した。これだなと思い、その首を指で摘まんであちこちへ押してみるうちに
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