》っ子から……」
帆村は軽く笑んだ。
「私もお婆さんにいろいろ聞いたから、お礼にこれをあげよう」と、帆村は二三枚の紙幣を老婆の手に握らせ「まあいいよ。取っときなよ、いくらでもないんだ。……それからもう一つ、二十五日の晩か二十六日の朝に、一人の若い男が汽車で着いて、千早館の方へ行かなかったかね」
「二十五日か二十六日というと三日前か四日前だね。はて、聞かないね、その話は……」
「五尺七寸位ある大男で、小肥りに肥って力士みたいなんだ、その人はね。もっとも洋服を着ているがね。髪は長く伸ばして無帽で、顔色はちと青かったかもしれない……」
「聞きませんね、そんな人のことは……」
帆村の一番知りたいと思ったことは、残念にもこの老婆の口からは聞き出せなかった。
4
爪先あがりの山道を、春部をいたわりながらのぼって行く帆村荘六だった。
だが、いたわる方の側の息が苦しそうに喘《あえ》いでいるのに対し、いたわられている方のカズ子は岩の上を伝う小鳥のように身軽だった。
「先生、田川は本当に、ここへ来ているのでしょうか」
「それは今のところ分らない。しかし田鶴子の動静を掴むことが出来たら
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