千早館の迷路
海野十三

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)胴慄《どうぶる》い

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)異臭|紛々《ふんぷん》たる

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)そだ[#「そだ」に傍点]
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     1

 やがて四月の声を聞こうというのに、寒さはきびしかった。夜が更けるにつれて胴慄《どうぶる》いが出て来たので、帆村荘六は客の話をしばらく中絶して貰って、裏庭までそだ[#「そだ」に傍点]を取りに行った。
 やがて彼は一抱えのそだを持って、この山荘風の応接室に戻って来た。しばらく使わなかった暖炉《だんろ》の鉄蓋をあけ、火かき棒を突込むと、酸っぱいような臭いがした。ぴしぴしとそだ[#「そだ」に傍点]を折って中にさしこみ、それから机の引出をあけて掴《つか》み出した古フィルムをそだ[#「そだ」に傍点]の間に置いて炉の中に突込み、そして火のついた燐寸《マッチ》の軸木を中に落とした。火はフィルムに移って、勢よく燃えあがり、やがてそだ[#「そだ」に傍点]がぱちぱちと音をたてて焔に変っていった。
「さあ、もうす
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