たが、帆村は、しばらく自分のすることを見ていれば分るといって、彼の持っていた洋杖《ステッキ》の分解を始めた。
 まず洋杖の柄を外し、あとの棒をがたがたやっていると、それはいつの間にか三脚台に変った。次にその洋杖の柄を縦に二つに割ったが、それを見ると、中には筒に入ったレンズやその他いろいろな精巧らしい器具がぎっしり填《つ》まっていた。帆村はその中からいくつかの器具や部品を取出し、それを三脚台の上に取付けた。もう誰の目にもはっきりそれと分る望遠鏡が出来上った。帆村はクランプをまわして望遠鏡の仰角をあげると、その焦点を調整した。
「ああ、千早館をここから監視なさるのね」
「そうです。今、よく見えています。交替で監視を続けましょう。そして、もし誰かが千早館を出入りするようだったら、それはどこから出入りするのか、よく見定めるのです。……しかしこの仕事は退屈ですよ。まず三十分交替としましょう。始めはもちろん私がやります。あなたはそれまでぶらぶらそこらを歩くなり、草の上で仮眠《うたたね》をするなり好きなようになさい」
 この仕事が如何に退屈なものであるかは、それからいくばくもなくして二人によく分った。さすがの帆村も、二時間目には退屈して下の池まで下りて散歩をした。それから戻って来た彼は、カズ子と、見張りを交替して、池の話をした。
「変った池ですね。水が牛乳のように白いですね。多量に石灰を含んでいる。しかしこの辺は他に石灰質のところを見かけないんだが、あの池だけが石灰質の池なのかなあ。そんなことは有り得ないと思うが……」
 そんなことをいわれたので、春部カズ子はその池へ興味を持って、下へ降りていった。
 その春部は十五分ほど経つと、息をせいせい[#「せいせい」はママ]切って帆村のところへ駆け登って来た。
「た、大変よ。恐ろしい発見をしたんです。ちょっと来て下さらない、池のところまでですの」
 春部はこれまでいつも面憎《つらにく》いほど取澄《とりすま》していたが、このときばかりは若い女子動員のように騒ぎ立てた。
「困りましたね。なにか重大なものを発見したらしいが、この千早館の監視は一秒たりとも中断することが出来ないのです。一体何ですか、あなたの発見したものは……」
「あの人の着ていた服地です」
「えっ、何といいました」
「田川のいつも着ている服の裏地なんです。それがこまかく切られて、
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