な、しかし噂に聞けば、五助ちゃんたちは三日にあげず山登りに忙しいそうだ」
「山登りって、どの山へ登るの。こんなに雪が降っているのに……」
「さあ、それはお父さんも知らないがね。とにかくあの家の者は変っているよ。今につまらん目にでもあわなきゃいいが……」
「つまらん目って、何のこと」
彦太は振返って後から来る父親の顔を見上げた。しかし父親は、ちょっと呻《うな》っただけで、それにはこたえなかった。
その翌朝、彦太はもうじっとしていられなくて、先のとがった雪帽を肩のところまで被《かぶ》り、かんじきの紐をしめると、家をとびだした。雁木《がんぎ》道がつきると、雪穴をのぼって、往来へ出た。風を交えた粉雪が横から彦大の身体を包んでしまった。五助の家まで、まだ五丁ほどあった。
五助は家にいた。そしておどりあがって彦太を迎えた。
火炉《かろ》のむしろに腰をかけて、仲よしの二人は久しぶりに向きあった。東京から買って来たお土産の分度器《ぶんどき》と巻尺《まきじゃく》が五助をたいへんよろこばせた。
「五助ちゃんは三日にあげず山へ行くってね。どの山へ行くんだい」
彦太は、聞きたいと思っていたことを、す
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