が、けだものの血でもないのだよ」
 ふしぎなことを彦太がいった。人間の血でもなく、けだものの血でもない。そんなことがどうして信じられようか。
 ――だが、彦太は何か自信をもっているらしく見えた。
 その謎の正体は何?


   兄の手帳


 雪こそなけれ、一造兄さんのこもっていた穴は、ひんやりと肌さむい。
 それに彦太が、血液型についてへんな話をはじめたものだから、五助は気味がわるくなって、背中に水をあびたようにぞっとした。
「五助ちゃんの手についていた血は、人間の血でもないし、けだものの血でもないことが分ったんだ。だからあの血は、兄さんのからだから出た血ではないから安心したまえ」
「兄さんの血でないと分ったのは、とてもうれしいよ」五助はほほえんだ。「しかし、人間の血でも、けだものの血でもないとすると、いったい何者の血だろうね。ああ気持が悪い」
「謎がそこにあるんだ。その謎をこれからぼくたちの手でときたいね」
「彦ちゃんには、すこしは見当がついているのかい」
「いいや、だめなんだよ」彦太は首をふったが「しかしねえ、ひょっとすると、あれはいつだか五助ちゃんがいった青髪山《あおがみやま》の魔神《まじん》の血じゃないかと思うんだ」
「魔神の血だって。魔神のからだにも血があるのかしらん」
 五助は目を丸くして彦大の顔を見つめる。
「それはぼくの想像だよ。とにかくこの穴の奥へ入って、もっと探してみようじゃないか」
 彦太は先に立って、穴の奥へ進んだ。穴は行きどまりのように見えた。だが、持ってきたつるはしをふるっで、土の壁を四五回掘ってみると、急に土ががらがらと崩れて、その奥に暗い穴があいた。
「やっぱりそうだ。この奥に穴がつづいているんだ」
 二人は、電池灯をふりかざして、その奥へ足を踏み入れた。
「でっかい穴だね」
「兄さんが掘った穴ではないようだね。もうずいぶん古くからあった穴らしい」
 穴の壁は岩のようにかたくなっていて、地質がちがっていた。いよいよ空気はつめたく、そしてどこからか滴《しずく》の落ちるような音がきこえた。彦太があっと叫んで、前へのめった。彦太の電池灯がふっと消えた。
「彦ちゃん。どうしたッ」
「なに、大丈夫。足がすべっただけだ。水が流れているよ」
 五助はほっと安心して、灯を持って彦太のところへ近づいた。彦太は両手をはじめ膝のあたりを泥まみれにして起上
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