ませんでしたか」
「疑えば疑えないでもありませんが、よくは存知《ぞんじ》ません。唯、兄と姉とが、勝見のことで変に皮肉な言葉のやりとりをしているのを一二度、耳にしたことがございました」
「いや、よく判りました。おっつけ勝見を呼び出しますから、一層事実がわかることでしょう」
 尾形警部は、その上で、笛吹川画伯や兄や私について、詳細をきわめた質問をしたそうです。百合子は、これから力になって貰いたいと思う勝見に、香《かんば》しくない疑惑のあるのを情けないことに思いました。この上は、もはや、印度《インド》洋あたりを航海している筈の私の帰朝の一日も早いことを祈らずにはいられなかったのです。しかし彼女は始めて私に会うわけなのですから、私という男がどんな人間であるかも判りかね、幾分の不安を伴うのでありました。
 尾形警部は勝見の引致が大変手間どれるのに苛々していました。警部は、勝見を兄夫妻殺しの犯人と睨《にら》んでいたのでした。ホテルで嫂と一夜を明かしたものは、勝見であるに違いはないのです。勝見を訊問することにより笛吹川画伯の頓死に溯《さかのぼ》り、赤耀館事件の一切が明白になると考えて、夜の目も睡られ
前へ 次へ
全65ページ中39ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング