の、まことに爽《さわ》やかな飲料でもあり、蒸し暑くなって来た気温を和げるための清涼剤でもありました。
「やあ、とうとう降って来た。凄い大粒だ」
 窓近くにいた誰かが喚《わめ》くのをきっかけに、窓外の闇をすかして、銀幕を張ったような大雨が沛然《はいぜん》と降り下りました。硝子戸をバタバタと締める音がやかましく聴えます。その騒ぎの中に時計は九時を五分過ぎ、十分過ぎ、もうかれこれ十五分を廻りましたが、一向試合開始のベルが鳴る様子がありません。
「どうしたんです。主人公は?」賀茂子爵が苛々《いらいら》した風で、奇声を張り上げました。
「どう遊ばしたのでしょうか。私も先程から不思議に思っていたのでございますが……。少々御待ち遊ばして。お室を探して参りましょう」
 執事の勝見が不安の面持で、急いで探しに行きました。しかし兄の姿は階上の私室にもなく、廊下にも発見することが出来ませんでした。階段の下で、これも兄を探しているらしい百合子と出会いましたが、彼女は、
「勝見さん、兄さんは屹度《きっと》実験室よ、行ってみて下さい」
「承知しました。――奥様は?」
「姉さんはあちらよ。姉さんがそう言ったわ、銚子
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