。執事は笛吹川画伯の世話で、赤耀館に勤めるようになった関係上、それからまた、画伯に縁者のないため死後の後始末をして来るため、このところ数日の暇を貰って行ったのです。
赤耀館では其夜も更けて一時とも覚しき頃、今夜は帰って来ないと思われた手伝いの伴造がひょっくり裏門から入って来ました。翌朝になって其の報告をするとて、兄夫妻の前に出て来た伴造は、昨夜の様子をこんな風に語りました。
「笛吹川さんのお家は、迚《とて》も淋しいところでがす。あたりは三方、大きな蒲《がま》の生えている沼でしてナ、その一方には、崩れかかったような家が三軒ばかり並んでいるのでさア。笛吹川さんのお家は一番奥にありまして、これは門もついて居り、古いけれど一寸|垢《あか》ぬけのした家です。
あの方は画かきだとばかり思っていましたが、中々勉強もなさると見えて、どの壁も本棚でギュウギュウ言っているんです。お通夜《つや》に来た、ご近所の三人の人たちも、こんなに本のある家は、見たこともない。上野の図書館とかにでも、真逆《まさか》、この倍と本があるわけじゃなかろう、と言っていましたよ。こんな勉強をなさる方が亡くなったのは、全く惜しい
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