と似て、ダリアは左眼の明《めい》を失うと同時に、右眼の視力が急に異常な鋭敏さを増加した。元々ダリアの右眼は、左眼よりも物が赤く見えるといっていたが、赤い光線を感ずる神経が発達していたんだ。そんなわけだから、一眼《いちがん》になって異常な視神経の発達により、普通の人には到底《とうてい》見えない赤外線までが、アリアリと彼女の網膜《もうまく》には映《えい》ずるようになったのだ。普通の人が暗闇と思うところでも、ハッキリ視《み》える。――この異常な感覚を自覚したときのダリアの狂喜《きょうき》ぶりは、大変なものだったろう。しかしその狂喜は、同時に彼女の破滅を予約したものでもあった。ダリアは悪魔になりきってしまった。殺人淫楽者《さつじんいんらくしゃ》という恐ろしい犯罪者に堕《お》ちたのだ。そして赤外線が視えるということが、彼女を裏切って秘密曝露《ひみつばくろ》の鍵にまでなってしまった。それは後の話だがネ」
 そういって帆村は、何か恐ろしいことでも思い出したらしく、大きい溜息をつくと、ビールを口にもっていって、琥珀色《こはくいろ》の液体をグーッと呑《の》み乾《ほ》した。筆者《わたくし》は壜《びん》をと
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