い》で、看護婦が二人もついている騒ぎだからと云った。
「実は、失踪された子爵夫人のことに関し、是非ご覧願いたい映画の試写があるのですが、それは困りましたネ」と帆村は長くもない頤《あご》を指先でつまんだ。
「映画ですか。あたし、代りに行きましょうか」
「そうですか。じゃ子爵の御了解《ごりょうかい》を得て来て下さい。よかったら御一緒に参りましょう」
「ええ、いくわ」
ダリアは、まだ繃帯のとれぬ大きな頭を振り振り奥に引きかえしたが、直《す》ぐコートと帽子とを持ってあらわれた。
「さあ、お伴しますわ」
三人が警視庁についたのは、すこし早すぎた。
「ねえ、ダリアさん。まだ四十分もありますよ」
「退屈ですわネ」
「ちょっと永いですネ」と帆村は云った。「そうそう、この中に面白いものがありますよ。警官に射撃を訓練させるために、室内|射的場《しゃてきば》がつくってあります。僕たちが行っても構わないのです。行ってみませんか」
「射的ですって? あたし、これでも射撃は上手なのよ」
「じゃいい。行ってみましょう」
呑気千万《のんきせんばん》にも帆村は、ダリアを引張って、警官の射的室へ連れて来た。そこは矢
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