い。君の右の眼と左の眼との色の感度がちがうのだ。今の話だと、君の左の眼は、青の色によく感じ、右の眼は赤の色によく感ずる。両方の眼の色に対する感覚がかたよっているんだ。それも一つの眼病《がんびょう》だよ」
「そうでしょうか、あたし困ったわ」と白丘ダリアは一向困ったらしい様子も見せずに云った。「ンじゃ先生、あたしが今|視《み》ている右の眼の風景と、左の眼の風景と、どっちの色の風景が本当の風景なんでしょうか。どっちかの眼が本当のものを見て、どっちかの眼が嘘を視ているのですね」
「そりゃ困った質問だ」と今度は深山理学士の方が本当に弱ってしまった。「どうも君の網膜《もうまく》のうしろに僕の眼をやってみることも出来ないからネ」
そういって理学士は考え込んだ。
こんな調子で、二人はいつの間にか十年の知己《ちき》のようになってしまった。
白丘《しらおか》ダリアの入所後《にゅうしょご》はやくも五日のちには、赤外線テレヴィジョン装置がもう一と息で出来上るというところまで漕《こ》ぎつけた。
ところが其《そ》の朝に限って、いつもなら午前七時には必ず出てくる筈《はず》の白丘ダリアが、十時になっても姿を現
前へ
次へ
全93ページ中28ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング