熊岡警官が保管している「茶っぽい硝子《ガラス》の破片《かけら》のようなもの」は何であるか。何故それが、轢死婦人のハンドバッグの底から発見されたか。
 さて筆者は、この辺でプロローグの筆を擱《お》いて、いよいよ「赤外線男《せきがいせんおとこ》」を紹介しなければならない。


     3


 Z大学に附属している研究所《ラボラトリー》に深山楢彦《みやまならひこ》という理学士が居る。この理学士は大学の方の講座を持ってはいないが、研究所内では有名の人物である。専攻しているのは光学《オプティックス》であるが、事務的手腕もあるというので、この方の人材《じんざい》乏《とぼ》しい研究所の会計方面も見ているという働き手であった。色は白い方で、背丈も高からず、肉附もふくらかであったので、何となく女性めき、この頃もてはやされるスポーツマンとは凡《およ》そ正反対の男であった。
 深山理学士が目下研究しているものは、赤外線であった。
 赤外線というのは、一種の光線である。人間は紫、藍《あい》、青、緑、黄、橙《だいだい》、赤の色や、これ等の交《まじ》った透明な光を見ることが出来る。この赤だの青だのは、ラジオと
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