って卓子《テーブル》電話機をとりあげた。
「はアはア。……うん、熊岡君か。どうした……ええッ、なッなんだって? 墓地を掘ったところ白木の棺が出た。そして棺の蓋を開いてみると、中は藻抜《もぬ》けの殻《から》で、あの轢死婦人の屍体が無くなっているッて! ウン、そりゃ本当か。……君、気は確かだろうネ。……イヤ怒らすつもりは無かったけれど、あまり意外なのでねェ……じゃ署員を増派《ぞうは》する。しっかり頼むぞッ」
 ガチャリと電話機を掛けると、当直は慌《あわ》ただしくホールを見廻した。そこには一大事《いちだいじ》勃発《ぼっぱつ》とばかりに、一斉《いっせい》にこっちを向いている夜勤署員の顔とぶっつかった。
「署員の非常召集《ひじょうしょうしゅう》だッ」
 ピーッと警笛《けいてき》を吹いた。
 ドヤドヤと階段を踏みならして、署員の下《お》りて来る跫音《あしおと》が聞えてきた。
 当直は気がついて、喰べかけの親子丼に蓋をした。
 ――とうとう、本当の事件になってしまった。隅田乙吉の妹梅子に間違えられた轢死婦人は一体、どこの誰であるか。どうして、地下に葬った筈の屍体が棺の中から消え失せてしまったか。
 
前へ 次へ
全93ページ中17ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング