たように感じた。どうやらこれは単純な轢死事件ばかりとは云えぬらしい。
「しかし隅田」と当直は口を開いた。「兎《と》に角《かく》、お前は他人の屍体を処分してしまったことになるネ。あの轢死婦人の骨は持ってきたか」
「いや、それがです。実は火葬にしなかったのです」
「火葬にしなかった?」
「はい。私どもの墓地は相当広大でございまして、先祖代々|土葬《どそう》ということにして居ります。で、あの間違えたご婦人の遺骸《いがい》も、白木《しらき》の棺《かん》に納《おさ》めまして、そのまま土葬してございますような次第《しだい》です」
「ううん、土葬か」当直は、なあンだというような顔をした。「では直ぐに掘り出して、本署へ搬《はこ》んで来い。警官を立ち合わせるから、その指揮《しき》を仰《あお》ぐのだ。よいか」
熊岡警官は、隅田乙吉について現場《げんじょう》へ出張することを命ぜられた。
どうも、粗忽《そこつ》にも程《ほど》があるというものだ。いくら独《ひと》り歩《ある》きをさせてある妹だからといって、顔面《かお》が粉砕《ふんさい》してはいるが、身体の其の他の部分に何か見覚えの特徴があったろうし、また衣類
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