、すくなからぬその恩恵に浴しているくせに、熊本博士をつねに奴隷のごとく使役した。
「腸《はらわた》を用意しておいてくれたろうね」
 さっき吹矢はそういう電話をかけていたが、これで見ると彼は、熊本博士に対しまた威嚇手段を弄しているものらしい。しかし「腸《はらわた》を用意」とはいったいなにごとであるか。彼はいま、なにを企て、そしてなにを考えているのであろうか。
 今夜の十一時にならないと、その答は出ないのであった。

     三番目の窓

 すでに午後十時五十八分であった。
 ○○刑務病院の小さい鉄門に[#底本では「小さな鉄門に」]、一人の大学生の身体がどしんとぶつかった。
「やに早く締めるじゃないか」
 と、一言文句をいって鉄門を押した。
 鉄門は、わけなく開いた。錠をかけてあるわけではなく、鉄門の下にコンクリの固まりを錘りとして、ちょっとおさえてあるばかりなのであったから。
「やあ、――」
 守衛は、吹矢に挨拶されてペコンとお辞儀をした。どういうわけかしらんが、この病院の大権威熊本先生を呼び捨てにしているくらいの医学生であるから、風采はむくつけであるが熊本博士の旧藩主の血かなんか[#
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