密裡《ひみつり》に、この成層圏飛行の研究をすすめているが、ドイツとアメリカが最もさかんのようであり、ソ連でも中々やっているようである。が、われわれの目にふれるものは、成層圏よりも幾分低いところを飛ぶ亜成層圏飛行であるらしい。その高度は六千メートル附近であるらしいから、もう四千メートルぐらい上に、成層圏があるわけである。
 このような亜成層圏飛行でも、やはり右にのべた恩沢《おんたく》はある程度あるらしい。そこでは、いつも西風が吹いているという。そして、この亜成層圏でも、空中に酸素が少いから、呼吸がかなり困難であり、また前にのべたように、摂氏の氷点下五十何度とか、ところによると八十何度のところもあるので、この寒さにも打《う》ち克《か》たねばならず、それぞれ特別の用意が必要となる。
 酸素問題は、酸素のボンベをもっていって、いよいよ苦しくなったら、栓《せん》をひらき、酸素をゴム管《かん》で出し、それを口にくわえるとか鼻にあてるとかする。しかしもっといいのは、搭乗者の座席を、空気の洩《も》れない、いわゆる気密室にして置き、ちょうど潜航中の潜水艦内に於けると同じような空気清浄装置や酸素放出器などを備《そな》えることだ。気密室にすることは、本当の成層圏飛行となれば、いよいよ必要のものであるから、亜成層圏飛行にもつけておくのがいいことは分っているが、ただ問題は、気密にするのはいいが、そのためにいろいろの器械を持ちこまなければならないので、飛行機がだんだん複雑大仕掛のものとなる。
 寒さを凌《しの》ぐ方は、軍用機その他でも既にやっていることだから、さまでむつかしい問題ではない。しかし、短時間の戦闘や偵察のときとはちがい、遠距離へ飛ぶこととなれば、長時間寒冷の中を行くこととて、保温装置も大仕掛にしておく必要がある。
 さて、話の方向をかえ、成層圏飛行の研究はなぜ大切かという問題であるが、これはまず第一に、前にも述べたように、遠距離飛行には、成層圏を飛ぶのがいいことは、よく分る。太平洋を越えるのに、今日ではいくら早く飛行艇で行っても、二日とか三日とかかかるが、これを理想的に完成された成層圏機でもって成層圏飛行をすると、一、二時間でいけるというような時代が来るのではあるまいか。いや、この時間は、もっと短縮できるかもしれない。
 しかし、成層圏飛行の研究の目標は、やがてわれわれ人類が、はる
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