さん。お駄賃《だちん》にちょっと返事をして下さい」と風間記者は鉛筆を舐《な》め舐《な》め格子の間から顔をあげた。
「真犯人《しんはんにん》戸浪三四郎は、目立たぬ爺《おやじ》に変装したり、美人に衆人《しゅうじん》の注意を集めその蔭にかくれて犯罪を重ねた、いいですね」
帆村は軽くうなずいた。
「戸浪三四郎が目星をつけて置いた掩護物《えんごぶつ》は片方の耳の悪い美女赤星龍子だった。龍子の隣りに席をとった彼は消音ピストルを発射して巧みにごまかした。ところが龍子の聴力は余程《よほど》恢復《かいふく》していたので、とうとう龍子に犯行を感付かれた。そこで彼は殺意を生《しょう》じたが、マンマとやり損じた。いいですね、帆村さん。
ええと、それから、龍子は重症だが、一命をとりとめると噂が耳に入ったので、戸浪三四郎は彼女の跡を追って伝研《でんけん》の病室へ忍び入り、機会を待った。チャンスが来た。寝ている龍子の心臓のあたりをポンポン打った。イヤ消音《しょうおん》ピストルだからプスプス射ったというんですね、そこを待ち構えていた刑事諸君の手でつかまっちまった。僕の手柄は手前味噌《てまえみそ》ですから書きません
前へ
次へ
全54ページ中52ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング