、ほかの方ばかりを探していて、春木が落ちこんでいる穴の上には近よらなかった。
そのうちに牛丸は、あきらめて、生駒の滝の前をはなれ、ふもとへ通ずる道をおりていった。
あとに残されて穴の中にひとりぼっちになった春木のまわりはだんだん暗くなってきた。彼は、お尻をさすりながら、あたりを見まわした。
「あッ、あの球《たま》だ」彼は、そばに戸倉老人の義眼《ぎがん》が落ちているのを見つけると、あわてて拾いあげた。
「何だろう。ふしぎなものだなあ。おやおや、目玉みたいだぞ。こっちをにらんでいる。ああ気味《きみ》がわるい」
あまり気味がわるいので、彼はそれをポケットの中へしまった。
「さあ、なんとかして、この空《から》っぽの井戸からあがらなくては」
見ると、空井戸《からいど》の底には、横向きの穴があった。人間がやっとくぐってはいれるほどの穴だった。しかし、気味がわるくて、春木ははいる気がしなかった。彼は立上った。そして上を向いていろいろとしらべてみたが、そこには上からロープもなにも下っていなかった。深さは十四五メートルらしい。
「土の壁が上までやわらかいといいんだがなあ。そしてなにか土を掘るもの
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